運動は万病を予防する

運動の効果は肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症の予防だけではありません。運動は、ガンや狭心症、心筋梗塞、脳卒中といった心臓血管病を含め老化と関連したほとんどすべての疾患を予防します。身体活動や運動は認知症予防の中で最も高いエビデンスが得られています。

運動が発ガンを予防することは国立がんセンター研究所が平成二十三年に発表した全国十一保健所管内十四万人の地域住民を対象とした生活習慣とガンなど生活習慣病との関連についての長期追跡調査(JPHC study)のデータからも明らかです。わが国では一般成人の年間許容放射線量は二十ミリシーベルト以下ですが、運動不足になると百ミリシーベルトの被曝よりも発ガンのリスクが高くなります。飽食や運動不足によって発生する活性酸素がもたらす内部被曝の恐ろしさについての科学的な裏付けはここにもあるのです。

運動はガン細胞が嫌うミトコンドリアを増やすことによっても発ガンを予防しています。運動をするとミトコンドリアの数が豊富になり、質も向上します。そうすると、ガン化を企てる細胞はミトコンドリアが発動するアポトーシスによって排除されやすくなります。また、適度な運動はガン免疫に関与するナチュラル・キラー細胞を活性化することが知られています。このように運動はさまざまなメカニズムでガンを予防してくれるのです。

運動、特にスクワットなど下肢の筋力トレーニングがカロリー制限と比べて優れているところは、骨を強くして骨粗鬆症の予防になることです。骨粗鬆症の程度は骨密度によって判定します。アメリカで肥満者を対象として、カロリー制限と運動の体重減少と骨密度におよぼす無作為試験を実施したところ、カロリー制限のグループでは体重減少に比例して骨密度が低下しましたが、運動によって体重を減らしたグループでは骨密度の低下は見られませんでした。運動によって常に骨に刺激を与えることが骨密度を上げるのです。単に、ビタミンDやカルシウムを摂取しただけでは骨粗鬆症は予防できません。